名古屋高等裁判所 昭和31年(う)71号 判決
検察官による訴因罰条の変更がない場合に裁判所が起訴状に記載された訴因と一致しない訴因に該当する犯罪事実を認定することが出来るか否かは問題であるが裁判所が認定する犯罪事実が訴因たる事実とその種類を異にするか若くは訴因たる事実よりも拡大されたものであるときは格別裁判所の認定する犯罪事実が訴因たる事実とその罪種を異にせず且その態様限度に於て訴因たる事実よりも縮少されたものである場合に於ては裁判所が斯かる事実を認定するに付必しも検察官によつてその訴因を変更して裁判所の認定すべき犯罪事実に一致させることは必要でないものと解する。蓋し斯る訴因に基く審判の請求には裁判所の認定する犯罪事実に対する審判の請求を包含しているのであるから裁判所が訴因の変更を待たないでその審判をしても決して被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる余地がないと謂わねばならない。本件につき之を看るに起訴状に記載された訴因は殺人罪を構成する事実であり原審の認定した事実は嘱託殺人罪を構成する事実であるから検察官が特に殺人罪の訴因罰条を嘱託殺人罪の訴因罰条に変更することがなかつたのに原審が嘱託殺人罪の事実を認定したからと謂つて直に所論の如く審判の請求を受けた事実に付審判をしないで審判の請求を受けない事件に付判決をした違法があると謂うことは出来ない。論旨は理由がない。
(裁判長判事 影山正雄 判事 栗田源蔵 判事 石田恵一)